一 〜夜中〜
カッカッカッカッ
小さな、スケルトングリーンの時計の中を。
カッカッカッカッ
小さな秒針が、変わらないリズムを刻む。
その部屋は、静かだった。
今は――午前一時。
窓の外で風が叫んでいるのが聞こえた。
厚めのガラスを通して、叫びは。
ビュィオオオオ…
低く、長く。
風が黙れば、静寂だった。
天井から放たれる光は、何故か心地よかった。
その部屋の床を見れば、そこは散らかり放題だった。
ゴミは無い。
だが、かなりの量の本が積み上げられ、そして崩れている。
足の踏み場も無い。
この部屋の持ち主は、あまりこの部屋を使わない。
自分の部屋だと言うのに、本と、机と、昔遊んだ玩具しかないから。
本を取りに来たり、珍しく勉強しようと思った時だけ、
その部屋に入ってくる。
まるで倉庫のような扱いはしているが、彼女は、この部屋が好きだ。
それはそれは本当に。
この、散らかり放題の部屋が、大好きだ。
椅子に、あるいは本に座り、時間を忘れて読書する事が一番好きだ。
小説、教科書、図鑑、テレビゲームの攻略本、漫画。
全てを合わせると、千冊以上の本が、その部屋にあった。
彼女は、
「本棚に入りきらないんだから、片付けられない。」
と言う。
どうしても座る場所が無くなれば、
自分の好きな空間を壊さないように、少しずつ本を積む。
そして、積み上げ終わったら、ふらりと立ち上がり、
明かりのスイッチをパチッとならすと、
テレビやパソコンのあるリビングへと消える。
もしくは、また本を読み出す。
そしてその時の彼女は、
カッカッカッカッ……
秒針の音にふと耳を傾けかと思うと、
「時計の音って、聞きようによってはどうにでもなるよね。
たまに、ドンドンドンって聞こえない?」
とかいう、くだらないボケをかます。
それが彼女の日常であった。
今日のこの部屋は珍しい方の使い方をされていて、
彼女は机に向かっていた。
時計が、一時五分をさす。
カッカッ…という変わらないリズムと共に、
「今日は昨日より遅いなぁ…」
と独り言をもらす。
「さぁて、やりますかぁっ!!」
ぐぅっ、と体を伸ばし、愛用のシャーペンを掴む。
そして、本の上に置いてあったレポート用紙を一枚剥ぎ取ると、
机の上の、なにやら沢山の文字が書かれているプリントの横に置いた。
明日……正確には、今日。彼女の学校で、漢字のテストがある。
彼女は、いつも一晩で十六〜十八の漢字を頭に叩き込むのだ。
世にも言う、一夜漬け、である。
それだけである程度やっていけるのは
それが一回10門程度の小テストであり、
覚える漢字が少ないからに他ならない。
国語は、ほぼ毎日のようにある。
そして、彼女も毎日のように一夜漬けである。
素直に毎日昼間、コツコツやっていればいいのにと、
苦言を背に受けながら。
正確なリズムに。
ガシガシガシガシガ、ポキッ
「あ、また折れた。」
そんな雑音が、25分ほど混じり続けた。
夜はいくらでも起きていられる。
と豪語する彼女には、嫌なはずの漢字練習さえ、
深夜ならば、それはそれは楽しい事なのだ。
彼女は、典型的な夜型人間だった。
前、午前四時ごろまで起きていて、
「短い時間に集中して寝たからかな、かえってスッキリしてるよ!」
と、遅くまで起きていた事を叱る親に言い放った事もある。
彼女も他の夜型人間達と違わず、朝はとても苦手である。
今日も彼女は眠気と戦いながら、朝食を食べ、家を飛び出す。
そして昼頃には、また元気になる。
そのサイクルが、ずっと続いている。
二 〜腹痛〜
彼女は、頻繁に腹痛を起こす。
長い付き合いの友達の中には、
心配さえしなくなった者も居る程、だ。
今日も彼女は腹痛を起こしていた。
美術の時間である。
じっとしていても平気で、その上先生の話も聞かなくていいと言う、
腹痛が治るのをじぃ、っと待てる、最高の時間。
ある意味、とてもラッキーだった。
彼女は、頻繁に腹痛を起こす。
その為、痛み方で大体の原因がわかると自負していた。
今日も、耐えながら原因を探る。
今回は……。
冷えによる腹痛が、朝食べたトーストにハムとマヨネーズを乗せた物で増幅されている。
ありきたりな理由であった。
これならば話は簡単で、彼女の場合待っていれば治る。
彼女は、机の上にある製作中の物を手に取ると、作業を再開しようとした。
その瞬間に、先生の「作業止めてー」と言う声が、無情にも響いた。
『え゛』
彼女の作っている物は、期限内に完成するのだろうか?
腹痛はまだ治らない。
三〜帰路〜
彼女は、学校帰りがいつも遅い。
家が遠いのと、友達とのお喋りと。
それでも彼女は、空が暗くなっていくのを気にしない。
それよりも、喜ぶ。
ジャッ、ジャッ、と、靴が地面を擦る音が聞こえる。
ふと、立ち止まり、周りに誰も居ないのを確認してから、
何かをぶつぶつと呟く。
誰かが居ても、同じだっただろうが、
その時は、きっと真っ赤な顔で歩きながら呟くのだろう。
呟いた一言一言を噛み締めて、
にやにやしながら彼女は歩き出す。
そして、彼女の頭の中では。
沢山の言葉が、渦を巻く。
そして、少しずつ選び出され、ふぅっと浮かぶ。
他の言葉が、暗黒へと落ちる。
が、
浮かんだはずの言葉が下りてくる。
沈んだはずの言葉が勢い良く飛び出す。
入れ替わり、落ち、浮かび、磨かれ、捨てられ、浮かび、噛み締め…。
言葉は詩を成す。
その詩は、彼女が何処かへ書き、保存される。
新しい小説を読みながら、
新しい詩を考えながら、
彼女はゆっくりと遠い家へと歩いていく。
時に、走る。
急いでいるんじゃなくて、走りたくなったから、走る。
彼女は、気ままに帰路を満喫する。
見上げれば、
日が沈んだ空。
それでもまだ明るい空。
ぼんやりと見える月。
歩く。走ったかもしれないが、関係ない。進む。
空も、進む。
日が沈んだ空。
徐々に暗くなる空。
濃紺に映える月。
やっと見えた一番星。
暗い道が好き。
星が沢山見えるから。
無駄な明かりで照らさないでよ。
星の光が、消えちゃうからさ。
彼女は無駄な明かりの中に、
我が家を見つけて微笑んだ。
〜あとがき〜
久々に読み直したら若い!若すぎる!っていうか恥ずかしい。
という訳でちょくちょく書き直したり、アホ過ぎる部分を消したり。
大筋は変わってないです。今もどこかで暮らしてるはずの「彼女」のお話。
半フィクション、ってとこです。
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