幸せを助ける者 第一話

 

幸助は短い黒髪を揺らして歩いていた。風とただこの地を歩む。

腰には異国情緒溢れる刀を差しているが、服は現代風のものを着て歩くのがこれまたミスマッチで、妙な違和感をもっている。

本人にも気づいて欲しいと思って風が何度も吹いているが、

彼にとっては気持ちがいいだけでしかなく、その胸のうちは爽快感に溢れている。

山を越え、谷を越え、川を越え、海を渡ってここまでやってきた幸助は、次なる景色への期待と冒険心に身を乗せ、平原を歩く。

いつしか日は沈み、夜が来る。

しかし、次の夜が来るまでには、何とか次の町へ着きたいものだ。

既に日は仰角40度を切るほどで空も赤みを帯びている。

彼は少しばかり歩速を上げた。そして、間もなく立て札が見えた。

←アカリャス城下町

ラメス街道→

↓ラカール村

この辺りの地理に関しては全く知るところではなかったが、どうやら町は左の方らしい。右は街道と書いてある。

ほんの一分ほどの早足であったが、立て札がある程度の距離であれば安心だと青年は歩速を遅め、のんびりと周りの景色を堪能しながら進み出す。

しかし、平原を抜けて森に差し掛かった時、今度は別にのんびりとはしていられない事態に陥る。

「おい、そこの男」

「止まれ」

幸助の後ろでする男の声。足を止める幸助。

彼には大まかな察しが着くだけに、少し呆れ気味に体の向きを変える。

「またか」

見たところは傭兵崩れのようだが、賊であることは一目瞭然。

いかにも自分を強いと思っているかのごとく格好つけた剣の構えだ。

「変わった剣をもっているな」

「武器と金目のもんを渡しな」

その安っぽい脅しに対し、青年は大きくため息をついて一言。

「断る」

そして無視して歩き出す。

「この野郎、痛い目にあわねぇと分かんないらしいな!」

そう言って剣で斬りかかる賊どもであったが、青年は難なくかわして走り出す。

「あ、待ちやがれ!」

「逃げるんじゃねぇー!!」

何かとやかましい賊たちであり、あまり係わり合いになりたくない幸助は何とかして撒こうと策を練っていたが、

分かれ道で青年が左に行くと、何故か盗賊たちは右へと進んだ。

何事かと思って彼が立ち止まると、

「待てー!そこの馬車止まれぃ!」

高々と盗賊たちの声が聞こえる。

馬車か、奴らは馬車に獲物を移したらしい。

「な、なんだ、君たちは!?」

「わめくな、痛い目に遭いたくなければな」

道と道との間、林の間に隠れて様子を見る幸助。

見れば、賊の一人が御者に剣を宛てがえて、脅しをかけている。

「さっさと降りろ!」

そしてもう一人の男が馬車に乗った者たちに降りるよう言った。

降りてきたのは貴族だろうか、上等な服、アクセサリーを身につけた青年と少女の二人組。

どちらもまだ若いようだ。

「何だ、お前達は」

腰にレイピアを携えた貴族の青年が言う。

「金目のものを出しな」

「あと、女も置いていけ」

賊たちはその刃を光らせ、片や御者に刃を宛てがえたままだ。

「早くしないと、この男の首が飛ぶぞ」

御者の顔は真っ青で、何もしなくとも貧血で倒れてしまいそうな様子だ。

この形勢からすると、青年は迂闊には動けないだろう。

さて、自分はどうするかと旅する青年は考えたが、考える前に体が動いていた。

自分が飛び出し、盗賊たちがこちらを向くより早く彼は刀を抜いて、御者を助ける。

盗賊の片割れは武器を弾かれ、その余波で彼自身も吹き飛んで倒れる。

弾かれた武器は回転しながら遠く離れたところに落ちた。

「貴様は、さっきの……はぅ!」

もう一人の賊がこちらに気が向いた瞬間、貴族の青年がレイピアを抜いて男の右腕を貫く。

血はほとんど飛ぶことが無かったが、かなりの重症だ。しばし悪事を働くことはできぬだろうに。

「く、くそ!」

賊はよろめき下がり様に言う。

「き、貴様ら! 覚えていろ!」

そして最後まで安っぽい台詞で締めくくり、逃げ出した。

辺りにはすっきりとした風が吹き、残った男女四人。

武士と剣士 二人の青年は刀剣を鞘に納めて一件落着だ。

「主ら、大丈夫であったか?」

幸助は馬車の三人に尋ねる。

「えぇ、おかげさまで」

貴族の青年はそう言って少女と共に一礼した。

優しい風が森を抜ける。

「た、助かりました」

続けて御者が一礼。

「えぇと……お名前は?」

そして続けざまに見知らぬ青年に尋ねる。

幸助は少しばかりうつむきつつ答えた。

「名乗るほどのものでもないよ」

少し照れ屋な性格ゆえか、名を聞かれるのはあまり好きでない。

「それより……」

そしてすぐさま、話題の転換を図った。

彼はふと貴族の青年を眺めて言う。

「もうすぐ日が沈む。夜になれば盗賊たちも活発に動き出すだろうが、主らもそこの町で休んで言ってはどうだ?」

「いえ、飛ばせば日暮れまでには村に着きますので、遠慮します」

「そうか。まぁ、主がいれば盗賊に襲われても大丈夫であろう」

「はは、そう言ってくれると幸いです」

そう言って貴族の彼は微笑むが、乾いた風が吹くのを察した青年は、共に馬車に乗っていた少女の手を握って言う。

「では、立ち話をして、あまり彼女を待たせてもいけませんので……、そろそろ失礼しますね」

「あぁ、気をつけてな」

馬車に乗る際、二人は幸助にもう一礼してから乗った。

続いて、御者が一礼して御者台に乗る。

そしてムチを鳴らすと同時に、馬が鳴いて馬車が走り出す。

「また、会えるといいですねー」

「そうだな、機会があれば、また会おう!」

馬車が走っていく際、窓から叫んだ貴族の青年。

瞬く間に離れて行く彼に、幸助は手を上げて答えた。

そして彼は馬車が走り去るのを見送った。

時期に馬車が去ると、冷たい風が吹いて夜、あるいは夕方の到来を予感する。

彼らが次の村に間に合うかどうか心配だが、かなり飛ばしていたので大丈夫であろう。

反対に早すぎることが少し心配でもあるのだが。

しかし、他の者のことばかりを考えて入られない。

幸助は自分の目的地、その方を向いた。

「さて、行くとするか」

そして幸助は歩き出す。

彼は、目的の無い旅、その途中を今は歩いている。



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