エストレーラ学園考古学部

第七話【闇の中へ】





―――黒い長髪、新雪の様に白い肌、不敵な笑みを浮かべた唇と妖しげな光を湛える紅い瞳、黒いコート。

それは紛れもなく、カービィが最後に見たゼロそのものでした。

「………ゼロ………!?」

「ぜろ?…カービィを狙ってる悪者!?――『過去に襲撃してきた者達』に書かれてた、『紅の眼』…!?」

ゼロは初めてそこに人がいることに気付いたらしく、ミトの方をその紅い瞳で見やります。瞳のあまりの冷た
さに、ミトは総毛立ちました。

「…カービィが懐いている少女、か…」

「ミトは関係ない!手を出すんじゃないッ!!」

「……悠久の時の力を封じ込められた槍…『ヒストリーランス』…か。エリエスも大変なものをこんな小娘に
授けたものだな。大した血筋の生まれでもないというのに」

「…ひすとりー…らん、す…?」

ミトの問いには答えず、ゼロは背後の暗闇を鞘代わりにし、黒曜石の様に黒光りする剣を取り出しました。

「大方こちらの時代へ戻る方法でも探しているのだろうが…私達は『主』に授けられた力によって自由に時空
転移出来るのだよ」

喋りながら、ゼロはカービィへ一歩一歩躊躇いもなく近付いて来ます。瞳にカービィのうろたえる姿を見据え
たまま。

「…この時代に目覚めて新たな仲間を手に入れたか。無駄なことだ。すぐに私があやつらの二の舞にしてくれ
るッ!!」

ゼロは叫びながらカービィを飛び越し、驚いて立ち竦むミトへ斬りかかりました!!

「わあぁっ!!」

「ミトっ!!ミトぉぉぉ――――っ!!!」



≪そなたに歴史の重みを持つ武器を授けよう。守るべきものを守れ。傷付ける為だけに使うな…心優しき少女
よ≫



ピカッ!!


ゼロとミトの間に目も眩むほどの閃光が現れ、光が止んだ時――ミトはゼロの剣を一本の槍で防いでいました。

柄に独特の文様が刻まれ、刃の付け根に黒く輝く卵形のブラックオニキスがはめ込まれた槍です。

「――!!それは…ヒストリーランス!!」

「え…あ、こ、これが…?」

「くそっ、エリエスめ…図ったか!?」

「…な、なんだかよく分かんないけど…か、カービィをいじめる奴は、私が許さないっ!!」

そう言うとミトは槍を構えゼロに攻撃を仕掛けます!

「ミト!!ダメだっ、危ない!!」

カービィの忠告も聞かず、ミトは槍を上に振り被ってゼロへ斬りつけました。

「ぐっ!!」

ガキン!!

ゼロは辛うじて剣で槍を受け止めます。少女とは思えないほどの力量に、彼は驚きました。

(――これも、ヒストリーランスの力だというのか…?とんだ邪魔が入ったな。計画を変更せねば)

「はあぁッ!!」

ゼロは剣を持っていない左の掌の闇のエネルギーを収束させると、黒い玉に変化させてミトへ発射します。

あまりにも速過ぎて発射されたことさえ気づかなかった為に、ミトは避ける暇も与えられませんでした。玉は
腹部へ直撃し、そのままミトは後ろへ吹っ飛びます。

「ミトっ!」

「…か、ほっ……だ、じょぶ……けほっ」

地面に倒れ伏すミトに駆け寄ろうとするカービィを足で一蹴すると、ゼロは気を失いかけているミトのもとへ
向かいました。

「闇魔法を受けて生きていられる人間か。ならばこの槍をルイスがこの小娘に授けたのも納得出来る」

ミトは霞んでくる目でゼロを捉え、必死に戦闘体勢に戻ろうと起き上がろうとしますが、腹部の激痛で思い通
りの体勢になれません。

「この状況でもなお戦闘体勢に入ろうとするか…この時代に生まれ育った軟弱な娘とは思えんな」

「ゼロ!!止めろッ、ミトは関係ない!!」

「関係なくなんかないよ!!」

カービィはその叫び声を聞いて、驚いてミトを振り返ります。

「……かほっ、か、カービィは……私の友達だ……だから、ゲホッ!! ……関係なくなんかない!! ……
私はカービィを守る!!」

霞む視界を気力で元に戻し、体力の限界に近づいていた体に鞭打って立ち上がり、ミトはカービィを守る為に
立ち塞がりました。


――親友を守る為に。


「……愚かな……」

ゼロは剣を地面に落とすと、両手で何かを描く様に動かしていきます。

――それに続く様に、ミトとカービィの立っている地面に鈍い銀色に輝く筋が引かれていきました。

「な、なんだ…これ!?」

「闇の呪縛……ちょこまかと動く貴様達にはお似合いだ」

筋はミトとカービィの周りを円で塞ぐと、輝きを僅かながら少しずつ増してきます。……カービィは自分の体
が動かないことに気づきました。

ミトも同じの様です。

「……ミト……!!」

ゼロは目を瞑り、闇の呪縛を解くことなく詠唱を始めました。




「≪闇夜は主を貫く剣となろう。暗闇は主を切り刻む刃となろう。――ストームオブダークネス≫」




闇の呪縛に捕らわれた二人を、ゼロの呼び出した無数の剣と刀が襲いました。

「きゃああああっっ!!!」

「うわああああああ!!!」

――どさっ。

呪縛を解かれ、地面に倒れ伏す二人。二人の体中に、切り傷と刺し傷が無数に出来ていました。

それでもなおヒストリーランスを手放さないミトに、ゼロは感嘆します。

「……カービィよ。貴様の精神の枷として、この娘を頂く。――戦闘能力もあると見た。……せいぜい己の無
力さに再び後悔せぬよう、無駄な努力をすることだな」

「……や……めろ…………ゼロ……!!」

カービィの途切れ途切れの声も聞かず、ヒストリーランスを握ったままのミトを抱えて時空転移しようとしま
す。

――その時。


がらんっ!!


時空転移をする直前、ミトの手からヒストリーランスが落ちました。

「なっ……!?」

ゼロは驚愕の表情を隠せません。闇の魔術で傷つき、体力の限界を超えてもなお掴んで離さなかったヒストリ
ーランスを、最後の最後でミトは落としたのです。

ミトはゼロに抱かれたままゆっくりとカービィに顔を向けると、イタズラっぽい笑みをつくります。「あとは
、頼んだよ」とでも言わんばかりに――。

ひゅんっ……。



木々に生える葉の擦れ合う中、カービィは一人、ヒストリーランスと共に取り残されました。

カービィの頭には、ミトの最後の微笑が焼き付いて離れませんでした。あの時の言葉も。




――……関係なくなんかない!! ……私はカービィを守る!!――




「……ミト……」

カービィはミトの残していった槍、ゼロ達の狙いだった槍――ヒストリーランスを持ちました。

目の前に途轍もなく眩しい光が現れたかと思うと、カービィの体は光に包まれて――見覚えのある場所へと導
かれました。





















――星の戦士よ、遂にこの槍を手にしたか――

「……あなたは、あの時ボクをツボに封じ込めた……?」

――あれは私ではない、ルネだ……が、主には悪いことをした。……だが、あの時はあれ以外に方法がなかっ
たのだ。許して欲しい――

「……ボクは……友達を助ける為に、戦います。……これからも」

――自分を置いて、主だけが生き延びたことを友人達が恨んでいたとしても……か?――

「…………はい! ボクは……例え相手に恨まれていたとしても、ボクに出来ること……皆を助ける為に、戦
います!」

――ならば私から言うことは何もない……あの槍は本来あの娘に授けたものだが……よかろう。一時的に主に
預けよう――

「ありがとうございますっ!」

――傷つける為ではなく、破壊する為ではなく――何かを守る為に、何かを助ける為に使え。……では、戻る
がいい。主の世界へ――




















「……カービィ……ミトはどうしたんだ?」

ハッと我に返ると、側にルーヴィが立っていました。緊迫した面持ちで、夜風が肌寒いというのに薄らと汗を
かいています。

「どうしたんだ? ミトはどこ行ったんだ……お前と一緒だったよな?」

「……ゼロにさらわれちゃった……んだ」

「――!! ミト……あ、ああ…ミト―――っっっ!!!!」

ルーヴィが地面に膝をついて叫びながら泣く姿を、カービィはやりきれない気持ちで見つめていることしか出
来ませんでした。


――気持ちが落ち着くまで、ルーヴィ君はそっとしておこう…。





そんな気持ちを胸に秘めながら。








***







闇に捕らわれた友人を、助け出す為に光は動き出す。

自分が守るべきものを見定めて、それに向かって前進していく為に。









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★星影流用語辞典


ヒストリーランス…直訳『歴史槍』…ランスって槍だったっけ?

エリエス…早い話、カービィに一時的にヒストリーランスを授けた人。

闇の呪縛…闇魔法の一種でしゅ(駄洒落…?

ルネ…カービィを『魂封じの壺』に封じ込めた人。『ッサンス』とつけない様に。



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