第五話「号砲は突然に」
「―――あれは」
デュアルは、前方に飛び出してきた三つの物体を見て、呟いた。
ブレッツもそれを確認し、それらが戦闘体勢を取っているのを見ると、
「何あれ、何かの余興かしら?」
と面白がった。
「まずいな、こんなところで時間を食うなんてことは・・・」
「別に良いじゃねーか、丁度良い肩慣らしさ」
デュアルが止める間も無く、スターは右手を振り被ると、拳を突き出した。
「親父、遅ぇ!」
自分達がすっかり上昇して浮遊しているところに、今頃飛んできたジェスをみて、イザスが苛立ちのこもった声を上げた。
「何だ、お前達が何も言わないで勝手に飛び出したんじゃないか」
話を聞いてれば言わなくても来ただろう。思ったが、口には出さなかった。
「ッ―――イザス!」
ここで咄嗟に、ライクが叫んでいなければ、どうなった事か。
恐らく、イザスは突然飛んできた黒い弾丸に吹き飛ばされ、上半身と下半身が引っ付く事は二度と無かっただろう。
幸い弾丸は、慌てて仰け反ったイザスの前髪を掠めただけに終わった。
「・・・何じゃ今のはあぁぁぁ!!」
仰け反ったまま、今更のようにイザスが叫ぶ。
「堕天使の攻撃か!?」
ライクに確信を持たせる間も無く―――いや、確信を持たせる―――第二波が、今度はジェスを襲った。
然し、先程の弾丸ではなかった。ジェスの視界に映ったのは、無数の黒い針!
初めて振るう翼を十二分に使い、上昇してこれを避ける。
「あんなどデカい針で縫われたら、俺どうなんだろうなあ、ハハハ」
場違いな台詞をひょうひょうと言ってのけるジェスを当たり前のように無視した二人は、迫り来る堕天使に突撃していた。
「なんだよ今の!堕天使って、あんなの出せるのかよ!」
「だろうな!」
悠長に話しているように見えるが、実際には、堕天使達が繰り出す弾丸と針を避けながら、である。
ここで話を数十秒前に戻し、堕天使達の会話を見てみよう。
「おっ。アイツ、避けたか?」
「見ればわかるだろう。腕、鈍ったのか」
間の抜けた顔をしているスターを、デュアルは真顔で皮肉った。
「それじゃ、私もやってみよっかな♪」
二人の冷ややかな視線の交換を知ってか知らずか・・・ブレッツは右手を突き出すと、腕の周りに無数の黒い針を生み出した。
そして彼女が手首をひるがえすと、針は標的に向かって集束していった。
それらが命中しなかった事を確認すると、ブレッツの表情は一変した。
「なあに・・・?あれも、避けるっての?」
「・・・・・・・・・『消す』か?」
「トーゼンよ」
二人一緒に不機嫌丸出しの表情をすると、同時に、弾丸と針を乱射し始めた。
「距離があるから、避けるには充分な時間があるって事・・・分かってないんだろうな、コイツら」
半ば呆れ、半ば馬鹿にしたようにデュアルが呟くが、それを聞いているのは風だけだった。
「いちッ」
針がイザスの頬を掠めていった。流れる血が風に吹き飛ばされていく。
「気をつけろ、接近すると、それだけ避けるのが難しくなってくる!」
「分かってる!バーベキューの食材になんかなりたくねーし!!」
「それなら、サンドバックならどうだ!」
次の瞬間、イザスは腹部に痛みを感じると同時に、後ろに吹き飛んでいた。そのまま、遅れて付いてきたジェスに突っ込んでしま
った。
―――もっと早く気付くべきだったのだ。何時の間にか、無数の攻撃の中から「弾丸」が無くなっていた事に。
射撃攻撃をブレッツに任せたスターが、一気に接近して、イザスに一撃を加えたのだった。
「おいデュアル!アークなんか後回しだ、こいつら消させろ!!」
振り向かずにスターが叫んだ。
「もういい、勝手にどうとでもしろ」
腕組したまま溜め息をつき、静観を決め込んだデュアルは、降下し、着陸した。
「お前、名前は」
「・・・はあ?俺か?」
むせながら体勢を整えるイザスに、スターは訊いた。
「そうだ、お前だ」
「・・・・・・・・・イザス」
「ふむ、イザス、ね。それじゃあイザス・・・」
ニヤリと笑うと・・・いや、睨んだのか?・・・スターは右手を振り被り、
「今更いやとは言わせねェ!俺と戦りあってもらう!!」
と勝手に決め付け、黒い弾丸を拳から撃ち出した!―――が、イザスは別段慌てた様子は無かった。
言われなくとも!と答える代わりに、弾丸をあっさりと避け、スター目掛けて滑空し、その勢いを乗せた拳をスターに振り下ろし
た!
然しこれは右手であっさり受け止められてしまう。
「へっ・・・へへっ。やっぱお前『並み』じゃねえな。少しは楽しめそうだ!」
そう言うなり、スターは空いてる左手でイザスを殴り飛ばした。
「ぐはッ!」
キリキリと回転しながら、再び後ろに吹っ飛ぶ。
「イザス!」
「アンタはこっち〜♪」
ジェスがイザスに加勢するよりも一瞬早く、ブレッツが針を撃ち出した。それはジェスの太い腕に突き刺さった。
彼は特にリアクションを見せず、刺さっている針を引っこ抜き、針を彼女に「投げ返し」た!当然ブレッツは驚いてそれを避ける。
「うわ、何アンタ。針が突き抜けないし、おまけに掴んで投げ返してくるなんて。無茶苦茶ね」
「何言ってるんだ、いきなりこんなモン投げつけてくるお前が無茶苦茶だろう」
「うるさいオジサンね、どうでも良いわよ、そんな事!」
言いながら、再度針を多数撃ち出した。ジェスはあっさり避けると、図太い腕を振り上げて、
ブレッツを息子の如く(笑)殴りつけた。「女を殴る拳は持ち合わせておらん!」とか言いそうな感じだが・・・
「・・・如何にブレッツと言っても、あんな豪傑が相手では少々キツいか」
「じゃ、加勢にでも行くのか?」
地上で戦況を眺めていたデュアルが心配そうに呟くのを聞いて、ライクは皮肉るかのように言った。
「そうだとしても、させないぜ。お前の相手は俺なんだから」
それを聞いてデュアルは、静かに、妖しく微笑むと、右手を突き出して―――
「ッ!?」
ライクは体中に黒い弾丸を受け、その場にひざまずいた。
だが・・・・・・少しおかしかった。
右手から放たれたものは、発射が分かったので楽に避けれた。然し、右肩と左肩あたりの何もない空間からも、
突如として、弾丸が現れ、ライクに向かって集束してきたのだ。
「加勢?何を言っているのかな君は。俺がキツいと言ったのは、一分以内で片付けるのが、だ」
かざした右手を下ろしながら、デュアルは低い声で呟いた。
「安心しろ、手間は取らせん――――――二分だ」
次の話を読む
前の話を読む
読むのを止める