第四話「飛行物体確認」

一行は、ルージュの家に来ていた。時刻は、昼の三時をまわっていた。
「何だろうな、アークさん、あの質問に答える時、顔色が悪かったぞ」
「俺、もうそんな事を気にするほど、余裕なかったよ。なあ親父?」
「ああ、あんなに緊張したの、何時ぶりだろうなあ・・・」
イザスら親子は、ぐったりとして椅子に座っていた。そんな二人を、ライクは呆れ顔で見守っていた。
「すいません、気疲れさせてしまいまして・・・」
紅茶を持ってきたルージュは、申し訳なさそうに言った。
「そんな事気にしないで良いよルージュ、君のせいじゃない。それに、この親子は何時でもこんな感じだから」
「はあ・・・」
ライクの薄っぺらさと、二人の疲れっぷりとのギャップに戸惑いながら、ルージュは紅茶の入ったカップを並べていった。
かわいそうに、この三人と行動を共にするには、彼女には荷が重過ぎる。
因みにあの後、続けて何個か質問をした(勿論ライクのみ)ところ、次の事が分かった。
まず、天使は一度死んだ人間の生まれ変わりみたいなものだから、老化も死も無い。
ただ、人間で言う「死」に相当するのが「消滅」だ。
宇宙から、存在が消えて無くなるのだ。完全に。そして消滅した天使は、人間界で転生するとか。
次に、事件についての情報。汚染された天使、つまり堕天使は全部で八人で、
男性が六人に、女性が二人との事だ。これといった繋がりは無く、やはり彼等は偶然汚染されたようだ。
目的は言うまでも無く「天界を冥界にする事」のみである。そうそう、堕天使は翼が真っ黒らしい。
然し―――具体的に、どのようにして、天界を冥界へと転身させるのであろう?ライクはそれがずっと引っ掛かっていた。
いくら宇宙最強の力を持っていると言っても、八人という少数で、何をどうすれば冥界などが作れるのだ?
彼等はそれを知っているのか?
「・・・おい、ライク?」
イザスに呼び掛けられ、ライクははっとした。目の前の紅茶は、すっかりぬるくなってしまっていた。
「ん?すまん、何だ?」
ぐいとカップの紅茶を飲み干して、ライクはイザスに向き直った。
「珍しいな、お前がボーッとするなんて。ま、いいか。ルージュが天界を案内してくれるってさ」
「おーい、お前等、早くしろよー」
家の出口から、ジェスの大声が飛んできた。
「んじゃ、行くか」
ライクは椅子から、ゆっくりと立ち上がった。

「ここが天界の街です」
ルージュがまずやってきたのは、商店街のようなところだった。幅広い街並みが、向こうへと延々と続いている。
「人間界と同じように、服とか食べ物とか、いろいろ売っています」
右を向いても左を向いても店、店、店。その周囲では人々が賑わい、明るい雰囲気が漂っている。
道が少し広めであるが、これは、歩行者同士で、翼がぶつからないようにするためらしい。
この後方にあるのが、さっき行った「宮殿」と、ゲートのある「森」である。
天界は想像よりは、手狭だった。といっても、一つの小国程度の広さはある。天使達が利用しているのが広くないだけ。
その他、天使達の団地、学校などを見てまわった。意外と、人間界とこれといって変わったところは無かった。
「なあ、あそこは何だ?」
住宅街の向こうにある、薄暗い空の辺りを指差して、イザスは訊ねた。
よく見ると、黒く刺々しい葉をつけた木々が寄り添う林があった。
「あそこは封印の赤壷がある林です。掟で、長以外は立ち入れない事になっています」
「おいおい、そんな事だから、壷が逆流する理由が分からないんじゃないのか?」
若干、腹が立っているような感じでジェスが言った。
「―――これは、宮殿に仕えている天使の、極僅かにしか知らされていない事なのですが・・・
 封印の赤壷は『負の波動』を発していると言われていて、それに汚染されますと、堕天使になってしまうんです。
 一般の天使は、魔法が使えるといっても、生活に少し役立つ程度の魔法なので、
 負の波動に耐える為の『オーラ』なんか使えないんですよ。オーラは代々、長しか扱えていませんので。今のところ。
 だから、掟で近付けさせないようにしているんです。あ、余談ですけど、あの木々の葉は、負の波動の影響で黒いんですよ」
「オーラねェ・・・」
ライクが不満気にボソリと呟いた。
「え、じゃあさ、あの鳥は『オーラ』とかいうやつ、使えんのか!?」
遠くからやってくる飛行物体を見て、イザスは驚きとからかいを入り混ぜた声を上げた。
「そんな事あるわけないですよ、天使以外は魔法は使えな・・・」
ルージュは笑いながらそれを見て、笑顔が驚愕の表情へと変わった。その飛行物体は、確かにあの林から、次々に飛び出してきて
いた。
数は三。全員漆黒の翼を羽ばたかせ、驚異的な速度で住宅街へと進行してくる。
ルージュは叫んだ。
「だ、堕天使です!!!」
「へー、あれがか、凄い速い・・・なあ、イザス!」
「ったくバカ親父が―――ンな事言ってる場合じゃないっての!」
図体がでかい割りに、何時も何処か、頭のピントがずれている父親にイザスは呆れ顔であった。
「で、どうすれば良いんだ、ルージュ?」
「そ、そんな事言われましても・・・私、戦闘になんか詳しくはないので・・・」
イザスに訊かれてルージュがおろおろしていると、ライクは彼女の言葉の断片に気付いてそれを提示してみた。
「『戦闘』って・・・・・・・・・戦えば良いのか?」
「え?ま、まあ基本的に、戦って堕天使を消滅させるしかないとは聞いてます。アーク様から」
イザスとライクは顔を見合わせ、そしてお互いに苦笑すると、偽物の翼を振るわせた。―――ジェスはちょっと遅れていた。

「全く、人使いが荒いよなあ、ラヴィデスは」
「文句言わないの、スター。あの人が一番頭が良いんだから、指揮を執るのは当然なの」
「そうは言ってもよお、ブレッツ。俺とデュアルはまだ分かるけど、女のお前まで出すなんてのは納得いかねえよ」
「スター、さっきブレッツが言ったばかりだろう。ラヴィデスが指揮を執る以上、命令は絶対だ。
 彼は、俺達三人に実力とチームワークがあると見たんだ。だから女のブレッツも出ている」
「そうよ。それに女、女って言うけどね、私をなめてもらっちゃ困るわ。って言うか、私入れても女は二人だけじゃない」
「まあ、それもそうか」
千切れていく荒涼とした風景を横目に、三人は高速で飛行しながら話していた。
「で、何するんだっけ?」
早速すべき事を忘却しているスターに、デュアルは呆れて、
「自分で思い出すんだな」
と、冷たく返した。おいおい、知っとかないと、出来ないだろ?とスターは続けるが、
既にデュアルの耳には、スターの声を聞き取るための窓口は用意されていなかった。
「ね、ブレッツ、教えて?」
子供みたいな顔をして―――まあ、かと言って彼が大人というわけでもないけれど―――スターはブレッツに頼んだ。
「全く、ちゃんと聞いてれば、あんな短い指令を忘れるわけないんだからね?」
おもむろに溜め息を吐き出すと、ブレッツは言った。
「手始めに、長のアークを消しに行くのよ」


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