第三話「収集の真相」

「よし、行くぞお前達!」
「・・・・・・親父、そんな荷物背負ってたら、テンション下がるから。マジで」
「何だ、何がいけない!?」
「ゲート」の前に勢揃いした四人は、のっけから妙な会話をしていた。
あの話の後、翌日出発という事に落ち着いたので、イザスとライクは極普通に、必要最低限の荷物で来ているのだが・・・?
「おじさん、フライパンなんか、何時使うんです?それに鍋も」
「おいおい、これが無いと料理が出来んだろう?」
馬鹿でかいリュックからはみ出したフライパンをその手に持って、ジェスは例のスマイルを見せた。
(ルージュの家に宿泊するのに、道具持参・・・?)
リュックをよく見ると、ヘルメットに機械類、壁掛け時計があるばかりか、何故か招き猫の置き物まで入っている始末。
彼は「天界」に、何をしに行くつもりなのであろうか。是非訊いてみたい。
ここに来るまでに、何故突っ込めなかったのか、と、イザスは後悔していた。
「とにかく!これは置いてけ!!あー、これも!!」
「お、おいおい!それもか?え、これも?」
イザスは父親のリュックから、必要無いものを片っ端から引きずり出していった。最終的に、二人と殆ど変わらない量に落ち着い
た。
「何だ、これだけで事足りるのか?」
「「当たり前だ(です)」」
「えっと・・・良い・・・ですか?」
三人の痴態(笑)に圧倒されていたルージュは、やっとこさ、台詞を絞り出した。
「ああ、親父がまた変な行動に出る前に、さっさと行こう」
「それでは・・・」
ルージュは木の幹を探るようになでて、見覚えのある「傷」を見つけると、そこを指で、そっとなぞった。
間も無く、木は金色に輝き、六角の葉も銀色にきらめき始めた。あのくぼみにも、黒い膜が出来ていた。
「うわ〜、すごいな・・・」
「こんな事が現実にあるんだなあ、イザスよ。今更言うのも変だが」
これを知らなかったライクとジェスは、ゲートを見て感嘆の声を漏らした。
「それじゃあ、私の後について来て下さい」
ルージュはそう言うと、くぼみの膜の中に足を踏み入れ、中に溶け込むように入っていった。
三人は後に続いて、ゲートを抜けていった・・・

出口は、最初の森と変わらない、至極一般的な森だった。
「ここが『天界』・・・?」
「ええ、そうですよ」
「何て言うか、こう・・・」
「「「普通?」」」
イザス、ライク、ジェスの三人は声を揃えて言った。
「別に、これと言うほど、人間界と変わったところなんて無いですよ。ただ、車とかバイクとかのたぐいがないぐらいですね」
「え、無いのか?」
「だって、ここにいるのは皆『天使』ですから、移動手段は翼で『飛ぶ』事なので」
「ふうん、そういうモン?」
「あ、飛ぶで思い出しました。皆さん、このままだと、人間ってバレバレなので、翼を付けませんとね。
 ちょっと待っててください。『天使用』の服を買ってきますので」
ルージュが買ってきた服は、背中に翼の為の穴が二つ空いたものだった。脱ぎ着する時の為のチャックも、各穴から下方にのびていた。
彼女は三人を振り返らせて背中を向けさせた。そしてまず最初に、
イザスの背中の、穴が空いている部分に両の手をそれぞれ置き、それから何かぶつぶつと唱え始めた。最後に、
「えいッ」
と掛け声を言うと同時に、その手を離した。するとその部分から、それぞれ翼が、バサリと生えてきた。
「おわっ!俺の背中に翼が生えた!?」
自分の背中に現れた翼に、イザスは驚きの声を上げた。ライクとジェスも、目を丸くしている。
「生えた、って言いましても、あくまで偽物ですから、事が済んだらすぐに消せますよ」
ルージュは、残る二人にも同じ処置をほどこしてから言った。
「それじゃあまず、天界の長に会って頂きます。いろいろ話があるとの事ですので。付いて来て下さい。『宮殿』に案内いたしま
すので」
そのまま四人は森を後にした。イザスの友人と全く同じ姿をした、天界側のゲートは、静かに佇んでいた。

「ルージュ、彼等が人間界から、貴方が連れて来た人間ですか?」
「はい。きっと、あの汚染された天使達から、天界を救い出せるかと思います」
イザスとジェスは緊張していた。まさか長が「若い女性」だとは思っていなかった。驚きと緊張が津波となって、二人を襲ってい
た。
親子揃って見事に、「白い髭を生やした老人」という、偏見たっぷりのイメージを持っていたものだから。
え、ライクは、って?ご心配なく、長が女性というのは彼にとっても予想外だったが、この程度で慌てるほど、彼は愚か(?)で
はない。
「人間の方々、よくいらっしゃいました。私は、天界全体を取り仕切っている、長の『アーク』です」
「ご紹介させて頂きます。向かって右から順に、イザスさん、ライクさん、ジェスさんです」
ルージュに紹介されると、三人はお辞儀をした。
イザスとジェスはカチカチで、肩に力が入りすぎた、非常に見苦しい礼であった。
「事情はルージュから大体は聞いているでしょうが、何か知りたい事がありましたら、今申して下さって構いません」
「それでは、アークさん。宜しいでしょうか」
待ってました、とばかりに、ライクが声を上げた。
「では、二つほど。まず最初に、自分達で何とかしようとせず、何故人間なんかに助けを求めようとしたか。
 二つ目に、その助けがこんな少数、しかもその内二人は、二十歳にもなっていない少年にも関わらず、
 まるで百の大軍を得たようなその安堵感は何故か。それをお訊ねしたいのですが」
ライクは、淡々と質問を並べていった。成る程、彼の質問は的を射ていた。
質問を受けると少し間を空けて、アークは返答した。
「人間は、天使は不思議な力を持っている、とお思いのようですね。確かに、天使はいろいろな事が出来ます。
 例を出すとすれば、今皆さんに生えている、ある筈の無い翼。恐らくルージュが『魔法』で出したのでしょうが・・・
 そう、天使は『魔法』が使えるのです。人間には無い、不思議な力ですね。
 然し―――天界に来た人間は、この宇宙で最強の存在、と言い切っても過言ではありません。
 人間は天界に来ますと、その身体能力は数十倍、数百倍、と、有り得ないぐらい膨れ上がります。原因はよく分からないのです
けどね。
 実は、これは、汚染された天使達にも全く同じ事が言えてしまうのです。
 普通の天使が相手をすれば、まず間違いなく『消され』ますね。蛇足でしょうが、汚染された天使達は『堕天使』と言います。
 これが、最初の質問の答えであると同時に、二つ目の質問の答えです。宜しいですか?」
アークは言い終え、笑ってライクを見返した。ライクは数秒考え、それから口を開いた。
「――――――それでは失礼ですが、もう一つ・・・今の話から察するに・・・・・・
 この事件は、初めて起こった事ではありませんね?」
無駄に広い「長の間」に、重苦しい沈黙が流れた。アークの笑みが、微かに薄れたように、イザス達四人は感じた。
「・・・・・・・・・その通りです。丁度百年前にも、同じ事が起きています。
 また、歴史書によると、私が長になる以前にも、同じ事が起きているらしいです。それも『百年毎』に」
「何故起こると分かっている事を、防げていないのです!?」
「あの赤壷は、天界と人間界が、同時にこの世に姿を現した時、もう存在していたらしいのです。
 つまりは、封印の赤壷は、我々が作ったとか、用意したとかいうわけではないんですよ・・・ですから・・・・・・」
アークが口を閉じると、再び、長の間は沈黙に包まれた―――


次の話を読む
前の話を読む

読むのを止める